過去に大ヒットしたすべての漫画が、最後までファンを飽きさせずに、完結したわけではありません。
その中で『鬼滅の刃』は、中弛みをせずに完結させた、作品の一つだと思います。
すでに原作は終了しているにも拘らず、この記事を執筆している2021年2月現在も、『鬼滅の刃』の人気は衰えていません。
連載期間が、2016年2月15日 〜2020年5月18日。
4年4ヶ月で完結。
話数は全205話、コミック全23巻のボリュームです。
人気作品であれば、連載期間10年を超え、コミックが30巻を超えるのも珍しくないのに、珍しいケースだと思います。
人気が出れば出るほど、出版社側の意向もあり、作品が長期化するのは当然です。
しかし吾峠呼世晴氏は、いたずらに作品を長期化せず、人気沸騰の最中に完結させました。
私は、吾峠氏の英断は良かったと思います。
前回の記事「人気漫画の長期化は、はたして良いことなのか?」https://matchamilk-blog.com/is-it-really-good-to-prolong-popular-comics/で書いたように、途中から違和感を覚えるようなストーリ展開になっていく作品も少なくありません。
2020年に「社会現象」とまでいわれた作品ですから、出版社側から長期連載のオファーがあったのは、想像に固くないです。
吾峠呼氏が作品の延命よりも、ご自身が当初から描きたいことを描き切る方を選んだと、私には感じられました。
それがあながち的外れではない、と思わせる情報がありました。
2021年2月4日に出版された『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐』に、連載立ち上げ当時の、担当編集者とのエピソードが載っています。
ファンブック第2段には、いくつかの「特別描き下ろし漫画」が掲載されています。
タイトル名「鬼滅の土台」は、吾峠氏が『鬼滅の刃』連載開始当時を振り返っている話です。
吾峠氏にとって『鬼滅の刃』は、初めての連載ものです。
右も左もわからない連載立ち上げ時に、担当した編集者を「『鬼滅の刃』を作者から引きずり出した」人物として紹介されていました。
漫画は、作家と編集者の二人三脚で世に出てくるのですが、その様子がリアルに伝わってくるエピソードでした。
まさに二人三脚。
こうやって作家からアイデアを引き出して、形にしていくのか!と、編集者の役割の重要さを実感しました。
タイトル通り、この時期に「鬼滅の土台」が出来上がったのです。
『鬼滅の刃』に限らず連載ものは、途中で担当編集者が変わることがあります。
吾峠氏も、連載が10話もいかないうちにそれを体験し、「驚きすぎて喋れなくなった」そうです。
担当編集者もショックだったらしく、「二人お通夜状態だった」とありました。
しかし、担当編集者の「鬼滅の今後の展開を、今決められるだけ、全部決めておきましょう」の言葉により、二人で打ち合わせをして、内容を詰めていくのです。
ここのくだりは、ぜひ読んでいただきたい!
この編集者がいたから、『鬼滅の刃』があったとわかるでしょう。
作家が超大御所でもない限り、編集者が作家の言いなりになるとは思えません。
想像ですが、新しい担当者から別のアイデアを提示されたり、長期連載や方向の修正を打診されたこともあったのではないでしょうか。
しかし、結果として吾峠氏は、このとき決めた方向性を貫いたといえるのです。
詳しいことは、『鬼滅の刃公式ファンブック 鬼殺隊見聞録・弐』を手にとってみてください。https://amzn.to/2Nf1IzR
余談ですが、吾峠呼世晴氏は女性です。
人気を博した『鋼の錬金術師』の作家、荒川弘氏も女性です。
昨今は、少年誌に女性作家が執筆するケースが増えていて、そのことも、魅力のある少年漫画作品が生まれる要因ではないかと考えています。